13 種明かし(骨董店&写真部)
13 種明かし(骨董店&写真部)



ありがとう、スカーレット





あなたのおかげで、みんな命が助かりました


リディアとフレデリックはスカーレットへそろって頭を下げる。
その場に駆けつけた他の者たちも、一様にほっとした様子だ。
そして教会の片隅では、この事件を起こした張本人であるヴィクトリアとそれをそそのかしたエドウィン氏が床に座り込んでいる。



いいえ、フレデリック先生。いつもこんなへっぽこ写真部を指導してくださっているのだもの。これくらいでは、恩を返したとは言えないわ


恐縮するフレデリックを前に、スカーレットは微笑んだ。



でも、どうして君はあの生き物の倒し方を知っているんだ!?


訝しげに、フレデリックは訊ねる。
あのような化け物を退治するのは容易ではない。
それをやってのけるスカーレット先輩には、何か特別な能力や経験があるのだろうと、思わずにはいられなかった。



あ……それを打ち明けるには、一つフレデリック先生に謝らないと。赦してくれるって約束したら、話します


スカーレット先輩は、フレデリックへ不敵な笑みを向ける。



謝らなければいけないこと!?この際、それはどうでもいいよ。話してごらん





了解。起こらないって約束よ。私たち写真部は、エンジェルストリート古書店をずっと見張っていたの。それはもちろん、あの怪しげなランプの噂を聞いたからよ。
私はこう見えて無鉄砲なの。他の部員たちと偵察をする以外の日にも、こっそり窓から店内を観察していたりたわ。
そしてある日、見てしまったの――あの不思議な幻を。どんな様子だったと思う!?





不思議な幻か……。ヴィクトリアの絵本のような世界だろうか?


フレデリックが首を捻る傍らで、



ええっ!?っていうかスカーレット先輩、そんな重大なこと見てたのに、隠していたんですか!?ひどいなーもう!!


グリーンは素っ頓狂な声を上げる。



ごめんなさいね、みんな。別に自分の手柄にするために隠していたわけではないの。
ちょっと恐ろしくて、口に出来なかった。
ランプの向こうの壁に映るぼうっとした光の中に、一人の不思議な男と真っ黒な怪物がいたの。男はちょうどフレデリック先生と同じくらいの年頃よ。そうしたら次の瞬間、怪物が男に襲いかかったの。もう終わりだと思ったわ。だって本当に恐ろしい外見をしていたから





なんだかクトゥルフ神話物にありがちな、面白いけど絶対自分は遭遇したくない類の話ですね……


グリーンがコメントをするが、スカーレットは無視して続ける。



けれど男は諦めなかった。一旦、自分の胸元に手をやって、それから怪物にその手をかざしながら、男は何かを怪物に向けて唱えた……窓の向こうの景色のはずなのに、私の耳にはしっかりその呪文が届いたわ。すると不思議なことに――怪物は消えたの。私は男の手元を見た。その男の手に握られていたのは……胸元から外した赤いネクタイだったの





だから君は、赤が怪物に打ち勝つための護符なのだろうと考えて、自分の髪を結んでいるリボンで試したというわけか





その通り。一か八かだったけれど、結果的に私たちは勝てたというわけね





そうか。たしかに君の勇気のおかげで僕たちは救われたよ。ありがとう。……だが、やはり好奇心で勝手な行動を取るのはよくないぞ。だいたい、ランプの幻を見たのって閉店後の夜になってからだろう?


感謝しつつも、フレデリックは眉をひそめる。



フレデリック先生。スカーレット先輩は悪くない。そそのかしたのは俺なんだから。たしかに俺たち写真部員は、エンジェルストリート古書店を怪しんで調査していた。だから、悪いのは全部俺だ





もう!かっこつけちゃって!まるで映画のヒーローみたい





グリーンだけかっこいいところを持っていくなんて、ずるいわよ


スカーレットとローズは口々にフォローした。



つまりは写真部のみんなのおかげで助かったというわけね。……ところでヴィクトリアは、大丈夫……?


リディアは、下を向き顔を覆うヴィクトリアに声をかける。



ううっ……ごめんなさい……私、ランプの向こうにあんな怪物がいるだなんて、知らなかったの……





起きたことを悔いても仕方ないわ、ヴィクトリア。さあ、一緒に帰りましょう。そしてもう二度と、ランプの向こうの世界に興味は持たないと誓って


優しく背中を撫でながら、リディアはヴィクトリアに諭すのだった。
