――中学生。
それは誰もが経験する、人生で最も熱い時代。
目に見える全ての不思議に心を踊らされ、日常のあらゆるものが眩く、輝いて見える時代。
大人になればありふれた日常が、まるで宝石箱のように大事なもので溢れ返って思える、そんな時代。
これはまさに、そんな中学生時代真っ盛りの、少年少女の身に起きる数々の《ロマン》の物語である。
――中学生。
それは誰もが経験する、人生で最も熱い時代。
目に見える全ての不思議に心を踊らされ、日常のあらゆるものが眩く、輝いて見える時代。
大人になればありふれた日常が、まるで宝石箱のように大事なもので溢れ返って思える、そんな時代。
これはまさに、そんな中学生時代真っ盛りの、少年少女の身に起きる数々の《ロマン》の物語である。
中学生★日記
たかしとまことの、波乱万丈
――白昼の住宅街に、その音は何度も響き渡っていた。



おい! おーい! まことー!
頼む、助けてくれー! 入れてくれー!
今すぐ俺を、かくまってくれー!!





なんだよ、たかし
あんまり家の前で騒がないでくれよ
それに「助けて」なんて穏やかじゃないな





ま、まこと……! とにかく、頼む、入れてくれ! 奴に見つかったら最後だ!





奴?





とにかく、外じゃマズイ! 早く中に!





あ! おい! 勝手に上がるなよ!





そんなこと言ってる場合じゃないんだよ! お前も急げ……





あ、おばさんお久しぶりでーす。相変わらずお若いですねー。いやー、うちの母ちゃんもおばさんみたいに優しくて美人だったら良かったのにー





調子のいいやっちゃなー





それで? わざわざ僕の家にきてどうした?





あ、ああ……





落ち着かない奴だな。何があったか話してみなよ





中学生になってから、そんなに仲良くしてない僕のところまできたんだ。きっと、それなりの理由があったんだろ?





……ごめん。この炎天下で、クーラーとか自室で利いてそうな中流以上の家庭で、そこそこ面識があって、距離的に近くて押しに弱そうって条件に当てはまる友達が他に思い浮かばなくてさ……





結構絞り込みの条件に余裕があるじゃないか! 追い出されたいのか!?





ち、違うって! そりゃ色々理由はあるけど、一番の理由は違う





一番の理由は、俺にとって頼りになる奴はお前だけってことだよ





……ふん





まあ、いいよ。それで? 何があったのか話してくれよ。せっかく頼りにされても、それがわからなきゃ期待に応えようがない





あ、ああ、わかった。あれは今から一時間前、俺がミツルやヨシクニと渋谷のサルキューに寄った帰りだ





僕、誘われてないぞ……





いやー! やっぱり渋谷は違うなー! まず人がすごい多い!





ああ! 人がめっちゃ多いな! あと、ハチ公の忠誠心がヤバい!





それな! 石になるまでご主人様を待つとか、なかなかできることじゃないよ!





この会話、すっげぇ頭悪いな!





頭悪いとか言うなよ! そりゃ、テストで学年11位のマコトさんにはそう思えるかもしれないけどさ!





学年11位ってあんまり自慢できる感じじゃないんだけど……まあ、いいや、で?





あとはモヤイ像かなー、ヤバいよね





確かに! 石になるまでもやっとするなんて、なかなかできることじゃないよ!





IQ低すぎていらっとする会話だな……





それにしても……って、タカシどうした?





さっきからじーっと、電車の窓の外眺めてばっかじゃんか





いや、ほら、こうやって走る乗り物から外を見てるとさ、電線とか家の屋根の上とかにこう……忍者走らせたくなんない?





それな!





あるある! 忍者走らせるやつなー!





忍者……?





ええ!? お前、やったことないの!? 普通、走る乗り物に乗ってたら誰でも一回は忍者走らせるだろ!?





そ、そうかな……?





子どものときはよくやったよな、忍者!





だよなー。でも、ああいうのっていつからやらなくなったんだろ





さあ? けど、思い出したから久しぶりにやってみてて……





――ニンニン





え?





どうした、タカシ





はは! まさか、忍者と目が合ったとか?





それな!





い、いや、そんなはずは……





ニンニン





忍者だー!!





それで俺、電車を降りてからもずっと忍者に追われてて……





どういう流れだよ! っていうか、ミツルとヨシクニは!?





二人とも、忍者にやられて……





俺、サルキューで買った指輪、サキに渡して告白するんだ……!





進路希望だけどさ、俺は実家のパン屋を継ぐって書いたよ。色々、迷惑もかけちまったからさ。親にちゃんと恩返ししたいんだ





って





これ以上ないほどの死亡フラグ!





それより、そんな危険な輩に追われてるのに僕の家にきたの!? 嫌だよ、やめろよ! 死ぬなら一人で死ねよ!





そんな風にいうなよ、友達だろ!? 友達なら、何に代えても助けようとするはずだ! なのにどうしてそうしない? 自分がそんなに大事か、一人で孤独の玉座に座って、誰もいない王国で孤独死したいのかよ!?





うるさいな! 僕はこの世界に必要な人間なんだよ! 君の方こそ礎になれ!





やれやれ、人の世はいつの時代も変わらぬでござるな……





誰だ!?





拙者でござるよ、ニンニン





出たー! これ以上ないほどの忍者だー!!





ほ、ホントに出た! まさか、タカシの妄言じゃなかったなんて!





妄言とかいうな! 夢か現実か区別つかない夢見て、ミカを彼女扱いして笑われたのトラウマになってんだぞ!





そんなどうでもエピソード知るか!





醜い連中でござるな。マサルとやら、今すぐタカシとやらから離れることをオススメするでござるよ。拙者の狙いは、タカシだけでござるからな





え、そ、そう? じゃあ、僕はここいらで……





待て! 騙されるな、マサル! 奴はミツルとヨシクニを殺ってる! 俺とお前を分断して各個撃破するつもりだぞ! 一人になるのは危ない!





た、確かに……タカシのくせに賢そうな発言を……!





そうして他人を自分の口先で利用し、不要となれば捨てるのがその男タカシの常。拙者もそのように、タカシに捨てられたものの一人でござる





タカシに捨てられたって……ええ、男じゃん……





やめろ! そんな趣味ねえよ! 中学生男子だぞ!? 女子に興味津々に決まってるだろ! なんならちょっとそれっぽい形した野菜にだって反応する年頃だ!





それな!





どれだけ言葉を飾ろうとも事実は事実! 思い出すでござるよ、タカシ。拙者とお主の、あの幼き日々の誓いを





誓い……





わー、わー、忍者だー、忍者だー





はいはい、タカシは本当に忍者が好きねー





はっはっは。ご母堂には拙者が見えぬようでござるが、拙者はいつでもタカシのことを見守っているでござるよ





わーい。ボクもねー、大きくなったら忍者になるー





おお!





それで、ハットリの隣で一緒に電線走るー





はっはっは。では、そのときを楽しみにしているでござるよ





以上でござる!





子どもの頃の話じゃん! 覚えてないよ!





これ、タカシの母さん的には非実在性青少年と話してたって認識だったのかな。幼い息子が見えない存在と会話してる的な。どうだったんだと思う?





そういう賢そうな考察、今はいいから!





とにかく、拙者は主君に裏切られたのでござる。裏切られた以上、忠義は反転して憎悪へ変わる! 忘れられていただけならばまだ許せた





しかし! タカシは拙者に気付いてしまった! 約束は忘れられたのではなく、破られたのでござる! ならば殺さねばならぬ! 拙者の存在にかけて!





当たり前のように忍者が跋扈してることの不思議はいいのな?





ヤバい、あの忍者、目がマジだ! このままじゃ殺される! マコト! 俺の代わりに犠牲になってくれ!





馬鹿、やめろ! ミツルとヨシクニが代わりに犠牲になったのに止まってないってことは代わりじゃ駄目なんだよ! 死ぬのはお前だ! 僕は生きる!





うおおお! 死んでたまるかぁ! 死ぬとしても一人じゃ死なねえ! お前を巻き添えにして死んでやるぅぅぅ!





醜い。だが、人は一人では生きも死にもできぬもの。その寂しさがわかっていながら拙者を一人にした、その報いを受けるときでござる!





うわああ、死にたくないいいい! マコトぉぉぉ! 秘められた真の力に覚醒するなら今しかないぞ! 目覚めろ!





そんな都合のいい話が……


――しかしここで、マコトのIQ122の頭脳がめまぐるしく回転する!



そうか、忍者だ!





え……?





わからないのか!? 忍者には忍者だ、それしかない!





何言ってんだこいつ……恐怖で頭おかしくなったのか……!?





言ってろ! とにかく、こうだ――!!





ま、窓際に駆け寄って……





顔を左右に振り始めた!? 何がしたいんだ!?





こうして左右に視界を振って高速で動かせば……それは、乗り物に乗って景色を動かしているのと同じこと! そしてその景色の中には……!





ニンニン





忍者だ――!!





やったぞ、狙い通り……! これが僕の忍者だ!





ニンニン





ニンニン





に、忍者同士が睨み合ってる……





たぶん、牽制し合ってるんだ。先に動いた方が負ける、そんな気がする





クソ、頼むぞ、女忍者……





くの一だよ。アヤメって言うんだ





今、決めたの?





今、決めたんだ





そ、そうか……





ニンニン――!





あ、見ろ! 動くぞ!





負けるな、アヤメ! 主君の僕が見てるぞ!





結婚してほしいでござる!





わかりましたニンニン





決まった――!





なんで、だあああああ!!!


ハットリ ○――● アヤメ
決まり手: 求 愛



結局、どういうことだったんだろう……





どういうことも何も、言ってた通りだろ





拙者たちは、窓の外を眺める人々の心が生んだまやかし





でも、まやかしでも心があるの





いつか一人になったとき、忍者は孤独で死ぬしかないと覚悟していた





だけど、こうして一人じゃないと思える日がくるなんて……





ありがとう、タカシ





ありがとう、マコト





拙者たち





幸せになります――





ってさ





人は孤独には勝てないってことか。それにしても、人騒がせな忍者だったよ





……人の心が生んだまやかし、か。俺はさ、マコト。ハットリがいてくれて、退屈なはずの移動時間が楽しかった。それは、嘘じゃないんだ





そっか。なら、ハットリも救われるんじゃないかな





へっ





ところで、マコトの忍者も心の生んだまやかしってことだよな?





そうなるね





じゃあ、マコトの忍者が女だったのなんでだ?





そりゃぁ、せっかくイメージが具現化できるチャンスなんだ





性欲に任せて、くの一を作り出すのは当たり前だろ?





……………………





……………………





お前も、やっぱり中学生なんだなぁ……





当然さ! 僕もお前も、華の十四歳――!





女って付く漢字を見るだけでも、興奮する年頃なんだからさ――!


中学生★日記
1日目――了
