第一章
予兆
第一章
予兆
青山通りの一角にある高層マンションに住む後藤直也・真希子夫妻の自宅。
カップに紅茶を注ぐ板垣あずみ。
どうぞ
ありがと
紅茶を口元に寄せる後藤真希子。
次に後藤直也のカップに紅茶を注ぐ。
サンキュ
きゃっ
真希子の死角であずみのお尻を撫でる直也。
あずみの含み笑い。
直也
（手を退けて）ん？
もう明南学園のシンボルデザインは上がった？
来週、先方と打ち合わせだからそろそろ…
ああ、それなんだけど難航しててさ。
明日、事務所でもう一度クリエイティブチームと一からコンセプトについて話し合いとリサーチをし直そうと考えているんだ
…ちょっと板垣さん、戸棚のおやつ持ってきてくれる？
はーい
台所に行くあずみ。
もうチーム間での充分なブレインストーミングは終えてるはずでしょう？
気に入らないんだよね。デザイナーとしてさ
いい加減にして。今更スケジュールの修正なんて出来っこないわ…最悪、前回の翔泳社のデザイン原案のストックを今回に…
他社のボツ原案ひっぱってくるだと？それが本当にプロの仕事か？ふざけるなよ、それでもクリエイティブオフィス“アシュラ”のマネージャーか！？
ごめんなさい。でもそんな言い方…
冗談だよ
真希子に歩みより、肩に手を回す直也。
“アシュラ”がここまで大きくなれたのは真希子、君の手腕のおかげだ。感謝してる
そう、感謝はしてても愛してはいないのね
なんだよ、ひっかかるな。あんまり下らないことばっか言ってると皺が濃くなるぜ？
甘える直也の手を冷たくほどく真希子。
お待たせしました～
あずみによってテーブルに並べられるカラフルなドーナッツ。
おお、美味そう
テーブル下からあずみの足を下から上に撫でる直也。パンティーにメモを忍ばす。もう片手でドーナツを取ろうとすると
…愛してるって言ってよ
（思わず手を離して）おい、よせよ板
垣さんいる前で…照れるだろ（苦笑）？今
日なんだかいつものお前らしくないぞ
…
…あの、私買い出しに行って来ま
す
立ち上がるあずみにメモを渡す真希子。
このリストの備品もお願い
はい
玄関に向かうあずみ。
あずみちゃん、またあとでね
はい！
あずみが完全に部屋を出ていくのを見計らってから
おい、いい加減にしろよ
…ごめんなさい。ちょっと疲れてるのかもしれない。今晩、久しぶりにクレヨンハウス行きましょうよ。実はもう予約取ってあるの
遠慮しておく。今晩はその…さっきの明南の原案やるよ。君の言うとおりだ。今更グダグダ言ってもしょうがない、今日はずっと書斎にいる。話しかけないでくれ
直也の手を握る真希子。
いいじゃない、素直に私の案を使えば。
意地張らなくていいのよ？いつも直也には私がいるんだから。オンとオフの切り替えも重要なプロの仕事よ
真希子の手から離れる直也。
ふざけるな、何がオンとオフだ！さっきから何なんだ！何が言いたい！公私混同するな。意味の無い機嫌取りと時間の無駄は避けたいね
…そうね、ごめんなさいね。ちょっと私頭冷やしてくるわ
どこに行く？
どこだっていいじゃない。それこそ意味の無い機嫌取り時間の無駄でしょ？
勝手にしろ。
とにかく、今日は書斎で仕事してるから後で話をしよう
私にはもう何も話すことなんてないわ
部屋を出る真希子。
next to go...
