一助と呼ばれた狐面は立ち上がる。

私は、ちょっとびっくりした。


狐面さんにも名前があったんだ！
……っていうか、こんなに同じような狐面がいる中で、一体ぜんたいどうやって見分けているんだろう。

顔は狐のお面で見えないし、背格好もみんな同じ。声だろうか？

しかし、私にはその声すら同じにしか聞こえなかった。

更に、その一助さんの発言にもあまりにびっくりしてしまい、心臓がバクバクいいはじめる始末だ。

そ、そんな簡単に……っていうか多分……

この人は何も考えて無いんだと思う！

二之継さんまで賛成し出す。




あとは、三之丈さんだけだけど……。

イキナリそれは無理！！

間髪入れずに、三之丈さんがばっさり一之臣さんの意見を切り捨てた。

二人はどこまでが『デート』においての許される範囲なのかと、一助さんに意見を求め詰め寄りだした。

すると──


カナリ狼狽している私に、二之継さんがこそっと耳打ちをして来た。

すると、二之継さんはクスリと笑った。

初めて見た彼の微笑みは、とても優しくて
思わずその笑顔に私の鼓動は早くなってしまう。


なんて、綺麗に微笑む人なんだろう……。

あっ！　人じゃなくて神様なのか……。

でも、出来る事なら何時間でも見つめていたいとすら思ってしまう微笑だった。

二之継さんはふいに私の手を取り、真っ直ぐにその澄んだ瞳を向けて来る。



向かい会った私と二之継さんの距離は、本当にもう少しで二人の唇が触れあいそうになるくらい……。

私と二之継さんの間に突然、一之臣さんが割り込んできた。

私と二之継さんの顔を、一之臣さんは何度も交互に見てくる。

一之臣さんの顔は何故か真っ赤だ。
よく見ると、耳まで僅かに赤くしている。

ふいに、今まで自信満々だった一之臣さんの顔がちょっとだけ不安そうな表情になり、その顔に私はドキっとさせられる。

私がそう言うと、一之臣さんは安心したのか、すぐまたいつもの自信たっぷりな表情に戻った。

さっきの自信なさげなアレは、幻だったんだろうか？

狐面さん達の間から歓声のようなものが上がる。

二之継さんはシルバーフレームの眼鏡のブリッジ部分を、クイっとあげた。

一之臣さんは、自信たっぷりの笑顔で言い放つ。

三之丈さんはどんだけ寝不足なんだろうか……。

一之臣さんは、いきなり私の手を取って歩き出した。

というか、男の人と手を繋ぐのだって中学１年の時のキャンプファイヤー以来だ。
大きな手はしっかりと私の手を包み込む様に握っている。

慌てふためく私に二之継さんが優しく微笑んで言った。


そして──

そう、耳元で囁いた。

繋いだままの手を一之臣さんがぐいっと引っ張って、そのまま私は連行された。

最初の広間を抜け、どんどん屋敷の中を進んで行く。
広いお屋敷はまるで迷路みたいだ。
先が全く見えない。

綺麗な庭の見える長～い廊下や、どこまでも続く襖を開けながら歩いていて、私はふと思った。


これからデートに行くのだ。でも、デートって普通は街中とかでするはずなのでは？　

しかし、ここは神様の住んでる場所、そんな所にデートする場所なんてはたしてあるのだろうか？

気が付けば、玄関の様な場所にいた。
ようなと付け足したのは、この場所が玄関というにはあまりにも広すぎるからだ。

そう言って一之臣さんが横開きの戸を開くと──

扉を開けたその向こう、私の目の前には信じられない景色が広がっていたのだ。