今日も絵美が俊之の部屋に来ていた。
今日も絵美が俊之の部屋に来ていた。



俊君、期末テスト、何番だったの?





ああ、2番だったよ。





すごいじゃ~ん。





本当は1番になりたかったんだけどね。





2番でも、すごいよ~。





順位はともかく、
良かったなって。





何が?





前に言っただろ。
1番になってから、
告ろうと思っていたってさ。





うん。





結局、その前に告る事になっちゃって、
付き合う事になったんだけどさ。





そうだね。





1番になってからだと、
もっと、もっと、
遅くなっちゃったんじゃないかってね。





そっか。





或いは、付き合う事自体も出来なく
なっちゃっていたのかもって。





そうかな~。





だから、本当に良かったなって、
今になって、つくづく思うよ。





そっか。





しっかし、暑いな~。





もう夏だもんね。





ごめんね、ウチ、
クーラーがなくてさ。





ウチもクーラーはないから平気。





それなら良かった。
それよりも、もうすぐ夏休みか~。





俊君、
夏休みもアルバイトをするの?





うん。
でも、何日かは休むつもりだよ。





そりゃあ、ねぇ~。





だから、
夏休みは何処かへ行こうな。





うん。





そう言えば、俺達まだ、
ちゃんとしたデートって、
した事がないんだよな。





そうだね~。





ゴールデンウィークは
お休み中だったしな。





うん~。





そう言えば、
佐藤はその後、どうなのよ?





どうなのって!?





彼氏が出来たとかって
話はないの?





中々ね~。





佐藤って結構、
もてると思うけどな。





そうだよね~。





どうなのよ?





何が?





だから、何もないっていうのも、
おかしいって言うかさ。





うん。
何もない事もないんだけどね~。





何があったの?





何もなかったみたい。





なんじゃ、それ!?





だから、何もない事もないんだけど、
何もなかったみたいなんだ。





よく分かんないけど、これ以上、
俺が首を突っ込んでも仕方がないしな。





夏休みにね、
由佳と木綿子と三人で、
海へ行く約束をしているんだ。





海かぁ。
俺はちょっと苦手なんだよな。





そうなんだ~。
ちょっと意外~。





泳げない訳じゃないんだけど、
余り得意じゃないからさ。





そっか。





海はちょっと怖いっていうか。





海は波があるからね~。





だからよ~、
俺とはプールへ行こうぜ。





いいよー。





楽しみだなー。





何が?





絵美の水着姿。





やっぱり。





あはは。
ばれちゃってた!?





なんかね~、
俊君の話の落としどころっていうの!?





うん。





なんとなく、解ってきたんだ。





そっか~。





だからさ、俊君が
楽しみだなーって言った瞬間。





うん。





私が何が?って訊いたら、
私の水着姿って言うだろうなって。





もう完全に読まれちゃってる訳ね。





そう。


そう言って、二人は笑った。
数瞬の間、笑い合った後、俊之が切り出す。



その前にさー。





何?





親を紹介してくれよ。





うん。
今週の日曜日にね。





うん。





お父さん、家に居るって
言っていたから、どうかな!?





分かった。
バイトを休まなきゃいけないな。





アルバイトを休んでまで、
会わなくてもいいんじゃない!?





だって、平日は無理なんだろ!?





うん。
お父さん、何時頃に帰って来るか、
分からないからさ~。





それに始めから紹介して貰う日は、
休むつもりでいたからさ。





そっか。





俺のバイトさ。





うん。





こういう時、便利なんだよね。





便利!?





うん。
そう、いつもいつもは
出来ないけどさ。





うん。





月に一回くらいだったら、
急に休んだりしても、
全然、大丈夫なんだ。





そうなんだ~。





普通のバイトじゃ、
時給は良くても、
そういう融通って、中々ね~。





そうだよね。





勿論、普通のバイトだって、
病気とかで急に休まなければ
ならなくなる事もあるだろうけど。





うん。





そうなった場合、
周りに迷惑を掛けちゃうでしょ。





そうだね。





俺のバイトは急に休んでも、
周りに迷惑は、
そんなに掛からないんだよね。





そっか~。





遅れた分は翌日以降に、
すぐ取り返せるから。





なるほどねぇ。





だから、自給が安くても、
簡単には辞めらんない。





私もアルバイトをしようかな~。





小遣いが足りないの?





全然、足りないよ~。





そっか~。





夏休み、どうやって、
遣り繰りしようかって。





大変なんだな~。





俊君、バイト代、
月に幾らくらいなの?





五万円くらいにはなるかな。





すご~い。





八月は夏休みだから、
二十万円くらいは稼げるかもしれない。





そんなにお金を稼いでどうするの?





秘密。





ひどーい。
そんなに稼げるんだったら、
アルバイトを少し減らして貰って、
私ともっと遊んで欲しいって、
思っちゃうな。





ごめん、ごめん。
貯金をしているんだ。





貯金!?





うん。
一応、俺、
奨学金制度を狙っているんだけど。





大学の!?





そう。
でも、奨学金制度を使えるか
どうか、分からないじゃん。





うん。





で、使えなかった時の事を考えて、
少しでも学費の足しになればと思って、
今から少しずつって感じ。





俊君、偉いなー。





だって、以前程ではないにしても、
未だに学歴社会である事に
変わりはないじゃん。





そうだよね~。





だったら、
大学くらいは行っておかないと、
将来が不安でさ。





私は大学なんて行けないよー。





そんな事を言う前に、
ちゃんと勉強をしろよ。





俊君の意地悪。





ははは。
まあ、そんなに心配はしなくていいさ。





何で?





前に言っただろ。





何を!?





絵美は俺が絶対に幸せにしてやるって。





俊君。





だから、俺、今、勉強と
バイトを頑張っているんだよ。





うん。
ありがとう。





まあ、あれだ。





何!?





夏休み中のデート代は
俺に全部、任せておきな。





えー、そんなの悪いって。





大丈夫。
それくらいは計算の内だから。





でも~。





それよりもさ。





うん。





さっき絵美、
小遣いが足りないから、
バイトをしようかなって、
言っていたじゃん。





うん。





バイトをしてもいいんだけどさ。





うん。





バイトよりも、もう少し勉強を
して欲しいなって、俺は思うんだ。





えーーー!?





何、そのリアクションはよー!?





だって、俊君、本当にお母さん
みたいな事ばかり言うんだもん。





俺達、学生なんだぜ。
学生の本分は学業だよ。





そうなんだけどさ~。





成績なんて、
どうだっていいんだよ。





そうなの!?





どうだっていいって事は
ないかもしれないけど。





ほら~。





成績そのものよりも、
勉強をするって事が大切だと、
俺は思うんだ。





どういう事?





体だってさ、サボっていたら、
鈍ってきちゃうでしょ!?





うん。





頭だって、同じなんだよ。





そうなのかな~。





特に俺達くらいに
成長途中の子供はねぇ。





うーん。





どうした!?





俊君の言っている事は
解るんだけどさ~。





うん。





私、勉強って、
大ッ嫌いなんだよね。





ははは。





本当なんだからね。





分かったよ。
仕方がない奴だ。





仕方がないなんて、
言わないでよー。





そんな事を言う奴は、
チューをしてやる。


俊之はそう言って、
絵美をベッドに押し倒し、唇を重ねた。
二人は数瞬の間、唇を重ねた後、
俊之が体を返して絵美の隣で横になる。
俊之も絵美も足だけがベッドの外にある状態だ。



日曜日かぁ~。





俊君、不安なの?


絵美は体を起こして、俊之に訊いた。



不安がないって訳じゃないけど、
楽しみの方が大きいかな。





そっか。





やっぱさ。





何!?





絵美のお父さんとお母さんにも
認めて貰ってから、
初めて、ちゃんとした交際が
始まるって思うんだ。





うん。





俺達、今はまだフライング状態。





そうかもしれないね~。


俊之も体を起こした。



俺、早くちゃんとした
交際をしたいって思うから、
絵美の両親と話をするのが
待ち遠しいんだよね。





私、お父さんにもう一度、
釘を刺しておこうっと。





頼むな。





それと今日、お母さんに話をして、
協力をして貰わなきゃ。





大丈夫なの!?





うん。
お母さんにはもう、ね、
俊君と付き合っている事は
話をしてあるんだ。





そうなんだ。





だから、今日、俊君の事を
詳しく話しておけば、
きっと助けてくれると思うんだ。





そりゃ、心強いな。





じゃあ、私、そろそろ帰らないと。





うん。


そして俊之はいつもの様に
絵美を絵美の家の前まで送って行く。
帰り道、とある民家の庭先で、
沢山の立葵が見事な花を咲かせていた。
