前回のあらすじ
前回のあらすじ



うぅ゛ッ……





おい!しっかりしろ!
源さん!源じいさん!


爺さんが倒れた。
6階に住んでいる爺さんだ。
この爺さんは女と見れば見境なく手を出そうとする色ボケ爺だ。だが、皆が源さんとか源爺さんとか呼ぶように居るだけで雰囲気が和らぐ。
それぐらいずっとニコニコ、いやニヤニヤしてる奴だ。
だからこそ、みんなから慕われているんだろう。
俺が玄関で掃き掃除なんかしてるのを見かけると必ず絡んでくる。いちゃもんつけては、下ネタを織り交ぜ自分で受けて笑ってやがる。
そんな爺さんだ。
だからこそ俺はこんな爺さんを……。



若いの……。ワシの遺産が欲しけりゃくれてやる。





お、おい!そんな……嘘だろ!





探せ、この世の全てをそこに置いてきた……。





いいから起きろ。
なんで俺は爺さんと毎回廊下で会う度にこのコントやんなくちゃいけないんだ!





わはは!今後、孫見せるんじゃ。





爺さん、子孫いたのか





んん?なんじゃ世界各地におるぞ?





はい、ダウト!絶対ウソ!





チィッ、バレたか。ついでに言うとワシが爺だということも嘘じゃ。本当はババアじゃ。





嘘つけ!!





……あんた、源さん踏んで何してるの





ふぐわぁッ!!?
あんずぅぅ!?





うぐぅ……あんずちゃん、助けておくれぇ。
この管理人殿がワシをいじめるんじゃあ~





何てこと言いやがるんだこのジジイーーー!!





最低……このクズ理人。





じゃ、ワシは水戸黄門見ながら暴れん坊将軍ごっこする時間じゃから!


そう言いながら爺さんは立ち去っていった。
立ち去る時、あんずの尻を触ろうとしてパシンと手をはたかれていた。
あんずは俺のことをゴミを見るような目で見ていた。
というかこの女、普通アイドルがしちゃいけないような顔してるけど大丈夫なの??



あんず、落ち着いて聞いてくれ





腐れゲロ虫、話しかけないでくれる。
ゲロはゲロらしく自らの汚物度を自覚してわきまえなさいよ。


きっつーーーーー。
言ってくることキツいわー。
なんなの!?



じぃ……。





ああっ……面倒くせえタイミングで
すごく面倒くせえ奴来た……!!!





……





あんずちゃん、おはよ





おはよ、磯村さん。





はうっ!


もちろん俺は管理人権限でこいつの本名を知っていた訳だが、
驚いたのはあんずの方がこの電波女とお知り合いなことだ。
そして、恐らく磯村は真名で呼ばれるのが嫌でショックを受けているのだろう。
何故なら磯村は俺が磯村が磯村という名前であるということを知っていることを知らないのだ。
↑
ややこしすぎない?
磯村は自分の本名を今俺に知られたと思ってショックを受けているようだ。
まあ元から知ってたけど。



あの……あんずちゃんには、その、こちらの世界の……仮の名……?えっとなんていうか、その……
源氏名?





ストップ。違う。





イーニャって呼んで





嫌





……じゃあ、またね。


何を嬉しそうにしているのか、さっぱり分からん。あいつドMの類じゃないのか?
だとしたらトモと気が合うのかもしれんな。まあ奴に女を紹介する気は1ミリも無いが。
イーニャスラ星人こと磯村はあんずのことを何度も振り返りながら廊下を去っていった。
そして、あんずは深い、深い溜息をつく。



意外だな。知り合いだったのか。





まあね。あの子、私のファンらしくて。
まあにわかだからどうでもいいのよ、扱いなんて。





ゲスくね、君?





アイドルは金よ。馬鹿なの?
どうして金を落とさない無能にまで愛想振りまかなくちゃいけないのよ。
ここは私の家であり無銭イベントじゃないんだけど?
あんたアイドル舐めてんの?





はい、すいませんでした。


管理人をやってから中々家を離れることが出来なくなってしまって、あんずのライブにはもうずっと行けていない。
実に心が痛い言葉だ。
CDは出れば買ってるんだけどね。



ま、あんたに言ってもしょうがないわね。
疲れたからかばんくらい持たせてあげるわ。





ははっ、喜んで!


あんずが放り投げるかばんをキャッチする俺。
我ながら見事な転身っぷりだ。
あんずが顎でエレベーターのボタンを指す。
俺はすぐにボタンを押す。



……♪


この女はとんでもないことに俺がこうやって彼女の奴隷ごっこに付き合ってやらないと
とても機嫌が悪くなる。
それは俺が仕事で忙しい時でもそうだ。
なんというワガママなお姫様なんだ。
だが、こうして奴隷に成り下がることで
アイドルがファンに向ける笑顔とは違う、
等身大の女の子がする楽しそうな表情を独り占めできるのはとても気持ちがいいものだ。
あんずの部屋の前に着く。
あんずはいつも部屋の前に着くと、
それまで俺が持っていたかばんを引ったくるように受け取る。
勿論、お礼なんて言った試しは無い。



はい、お礼。これ





熱でもあるのか





じゃああげないわよ。この歩くゴミステーション





ひでえ言われようだ!いります!ください!!
この卑しい豚めにあんず様からお恵みをください!!





ふふん、よろしい♪はい、これ


あんず1stソロLIVE ~COME COME DREAM~



うおおお!?





い、いいのかこれもらっても!?





馬鹿。特別よ、家族にあげようとしたらママもパパも都合つかないとか言って。
だから、まあ本当は武(タケ)さんに来て欲しかったけど……見つからないから。





マジでいいのか!?絶対行くわ!
うっひょーー!





ぷっ、馬鹿じゃん?そんな楽しみ?





当たり前だろ!!
やべー!帰って予習しなくちゃな!





はいはい。じゃ、また





おーう!


俺は貰ったチケットを片手にスキップで階段を降りてきた。
(スキップで階段降りるって難しいな)
最高だ。
俺は自分の部屋に戻ってきた。
何度も貰ったチケットを眺める。
いやー、最高の貰い物をしたなぁ~。
で、これ何日にやるんだろう……。
あんず1stソロLIVE 5月16日(日)16時開場



16日の日曜日か。よし……。


俺はチラッとカレンダーを見る。



…………!!!!


俺のカレンダーの
5月16日(日)の枠には……
一言だけ、
「花音ちゃんの運動会に行く」
と書かれていた。



やばい……これ行かなかったら殺される……


