グージィ

ごっ、ごシュジン~! ワタシはトめようとしたんですよ、でもあいつめ、ワタシにマホウをかけて・・・!

ヤムカ

眠り魔法か。ルーガルの奴、オレたちを眠らせてこっそり出ていきやがった!

コペ

え、え、どういうこと?

ベシワク

ルーガルは、一人でリリーシカと戦うつもりだ。

コペ

ここまでみんなで来たのに? どうして?

ベシワク

自暴自棄になってるのかもしれない。負ける前提の戦いに、他の人を連れてはいかないだろう。昨日のヤムカの予想は、当たってるのかも・・・!

僕は立ちつくした。

ルーガルが、ジャハの壁の向こうに行ってしまっていたら?
あの壁を越えるのは、ルーガルの魔法頼みだ。僕たちでは追いかけることができない。もう止められない。

ヤムカ

グージィ、ルーガルが起きたのに気づいたのはいつのことだ?

グージィ

ナンジカンもマエかと! マドのソトはマっクラでしたから。

ヤムカ

じゃあ・・・もうとっくにジャハに着いてるだろうな。

ベシワク

・・・追いかけよう。

ヤムカ

結界の向こうだぜ。どうやって?

ベシワク

ヤムカの戦闘用人形は? 結界を壊せないか?

ヤムカ

馬鹿か、物理攻撃で壊れる結界じゃ対魔物の役に立たねえだろうが。

ベシワク

コペ、結界を解除する魔法とか・・・

コペ

軍属魔法師に対抗するなんて一般人レベルじゃ無理!

ベシワク

軍属・・・そうか、政府があの結界を張ってるんだ・・・それなら・・・

ヤムカ

ベシワク? どこ行く気だよ。

ベシワク

ジャハの前に、臨時の役所があったはずだ。

ヤムカ

おいまさか。

ベシワク

結界を張ってる人がいるんだから、その人たちに話を通せばいい!

僕たちは馬車に乗り込んだ。
そして朝の町をジャハまでまっすぐに駆けた。

少将

ははあ。ジャハを占拠する魔女を、あなた方が倒しに来た、と・・・。

約一時間後、僕たちは一人の軍人と面会していた。
"対ジャハの魔女"作戦本部長、マカスター少将だ。

ヤムカ

この人、ここでいちばん偉いんだよな? よくあっさり会えたな。

ベシワク

臨時の役所だからね、何事も臨機応変に対応しなきゃ。拒否すれば長引くと思えば、会わざるを得ないよ。

ヤムカ

粘る姿勢を見せれば、ってことか。

ベシワク

とはいえ、この先はどちらに転ぶか。上手く行けば話を聞いてもらえるし、悪ければ・・・

少将

はっはっは、冗談でしょう。

ベシワク

・・・こんなふうになる。

少将は、馬鹿にしたようにニヤニヤ笑っている。

少将

そんな戯言に耳は貸せませんね。だいたい、あなた、魔力なしでしょう?

ベシワク

それが何か?

少将

壁の中に入ったところで何ができます? もしかして、自分で何を言ってるかわかってないんですかね。後ろの二人。早く彼を連れて帰ってくれませんか?

僕は思わずヤムカと顔を見合わせた。

ベシワク

えっ、あまりにも失礼すぎないか?

ヤムカ

大陸じゃ、魔力なしは下に見られてるって言っただろ。これが普通だぞ。

ベシワク

ええ・・・本当に?

少将

そもそも魔力なしが、人の目につくところを歩くものじゃない。

ベシワク

ええっ・・・

コペ

いっ、言わせておけない!

コペが身を乗り出した。
僕はそれを手で制した。

コペ

ベシワク!

ベシワク

失礼。僕はこの国の人間じゃないもので、風習を知らなくて。

少将

おや、そうなのか。

ベシワク

ええ。南洋諸島連合を束ねるガトド島首長イルクの孫、ベシワクといいます。祖父のあとには僕がその座を継ぐことになっています。どうぞお見知りおきを。

少将

・・・ガトド島の次期首長だと?

ヤムカ

えっ、初耳。もっと早めに名乗れよ。

少将が姿勢を正した。なぜかついでにヤムカも。
一国の次期首長という立場は、あまり頻繁に利用するものじゃないけど、ひとまず耳を貸させたいときには便利だ。

南洋諸島は、ひとつひとつの島は小さくても、その全てを合わせた「連合」となれば決して小国じゃない。

実際は僕一人を侮辱したところで、大事にするには時間がかかるけどね。

ベシワク

島と大陸で文化が違うのは当たり前ですが、この国では予想以上に、魔力を持たない者に不利な政治が行われている様子。あなた方にはお気の毒です。

少将

気の毒? なぜ?

ベシワク

僕がジャハを取り戻すからです。魔力なしの力で取り返した都に大きな顔で暮らすのは、羞恥心にとって挑戦でしょう。

少将

馬鹿なことを。魔力なしがあの恐ろしい魔女に勝てるわけ・・・!

その恐ろしい魔女も、かつては魔力なしだったのだけど。
それはともかく、僕は少将に一礼して、背を向けた。

ベシワク

よい知らせを持って帰ります。それまでに、謝罪の言葉を用意しておかれますよう。

ヤムカ

おまえ、ルーガルに似てきたか?

ベシワク

えっ、そう?

ヤムカ

ほめてねえからな?

コペ

ていうかベシワク、王子様だったんだ。

ベシワク

うちの首長は世襲に限らないけどね。にしても、緊張で肩が凝ったよ。こういう口喧嘩はエイトウの方が向いてるんだよな・・・。

弟のエイトウがここにいたら、量も毒も、僕の三倍言っただろう。あいつ自身は魔力持ちだけど、あいつが首長になりたがってる島は住人のほとんどが魔力なしだ。
間接的に島民が馬鹿にされて、黙って聞き流す奴じゃない。

ヤムカ

で、どうすんだ? あんなタンカ切って、もうあとに引けねえぞ。

ベシワク

うん、それでさ。結界張ってる軍属魔法師って、どこにいると思う?